20200828 初めて4時間の将棋を指した感想
本日王位戦の浦野八段戦を指し、勝つことができた。
次の対局を指せることが本当に嬉しい。
自分にとって、とてつもなく大きな1勝だと感じる。
初めて4時間という長い持ち時間の将棋を指し、思うところが色々あった。
一度形勢を損ねたらじわじわ時間を使って締めあげられる。
逆転はのぞめないだろうから序盤戦がおそろしく重要だと思って臨んだ。
将棋は不利になったら先を読んだり手を探すのが大変になり、時間の消費も多くなりやすい。
形勢も時間も不利になると、勝つことは相当に難しくなる。
もちろん有利な側もしんどい面はあるのだが。
こちらは経験値が全くないので、百戦錬磨のベテランの先生相手に終盤に時間を残そうと軽率な早指しをしては絶対に勝てないと思った。
昼食休憩の段階でこちらの方が時間を使っている展開になっていることが望ましいという気がしており、実際にそうなったのは好材料だった。
指していて、長時間の将棋の対局というのはものすごい激務だと感じた。
昔記録係を300局以上務めたが、実際に対局すると横で見ていたときとは全然違う世界でびっくりした。
アマ大会や銀河戦の早指し戦とはまったく別のゲームをやっているような感じもした。
早指しであれば、多少形勢を損ねてもチャンスがきやすいので序盤は気楽に指せるところがある。また、考えすぎずにテンポよく指さないと勝ちづらい意味もある。
長時間の将棋は先ほど書いたように形勢を損ねることのデメリットがものすごく大きい。
そのため、傍からみれば普通の手を指し続けているだけのように見えても、
・いくつもある候補手の中でどれが最善かを比較する
・比較するためにそれぞれの手の先を読み進める
・読んだ内容の確認
これらの作業だけでも膨大な思考の量になる。早指し戦では感覚や好みで決めている部分が大きかった。
読んだ内容にわずかでも間違いがあり悪い手を指したらまず見逃してくれる相手はおらず、咎められて形勢を損ね非常に厳しい戦いになる。
そして持ち時間の制約があり、どこかで必ず読みを打ち切り決断しなくてはいけない。
その判断も非常に技術が問われるところで、読みを省略して感覚に頼ることも必要になる。
心理面や体調面など盤外の要素も絡んでくる。
そういった作業を朝から晩までずっと続けるので、本当に大変な仕事だと感じた。
大変ではあるが、こんな素晴らしい環境で将棋を指させていただけて、強くならないわけがないと思った。
長い持ち時間、相手は皆プロ棋士という将棋の鬼、お金や名誉など大きなものがかかった公式戦。
1局指すごとに必ず強くなれると確信した。
こういった対局の仕組みが構築されている将棋の世界はすばらしく恵まれていると思った。
毎回の対局が本当に楽しすぎる。
それは今だけなのかもしれないし、そうでもないのかもしれない。
事前準備の面でも、公式戦の棋譜はすべて見られて、際限なく研究ができる。
一度使った作戦はすべて調べ尽くされる。それもプロ将棋ならではといえる。
たくさん対局したい、そのためには勝たないといけない、だから勝ちたい、というのが今の率直な気持ちだ。
持ち時間が短い棋戦はまた違った趣があり、やはり指すごとに強くなれると感じる。
棋士になってから公式戦を指したのはまだ4局だが、何十局も指したときにはどれほど強くなっているかと思うと、自分でも楽しみだ。